「体幹を鍛えたい」と思ったとき、腹筋運動やプランクを思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。

もちろん、これらも体幹を鍛える方法のひとつです。しかし、スポーツの場面を考えてみると、身体を止めた状態で力を発揮することはほとんどありません。

走る、投げる、蹴る、相手と接触する。こうした動きの中で手足をスムーズに動かすためには、その土台となる体幹をコントロールすることが重要です。

今回は、柔道整復師として日々トレーニング・コンディショニング指導を行っている筆者が、自宅でできる基本的な体幹トレーニングから、スポーツにもつながる「使える体幹」の考え方まで紹介します。


そもそも体幹とは?腹筋との違い

一般的に「腹筋」と聞くと、お腹の表面に見えるシックスパックをイメージする方が多いと思います。その代表的な筋肉が「腹直筋」です。


腹部には腹直筋のほか、外腹斜筋や内腹斜筋など複数の筋肉があります。
今回特に注目したいのが、腹直筋よりも奥、腹部の深層に位置する「腹横筋」です。

腹横筋は腹部を横方向に取り囲むように走行する筋肉で、腹圧の調整などにも関わります[1][2]。
ただし、「腹横筋だけを鍛えれば体幹が強くなる」というわけではありません。

体幹には腹部だけでなく、背部や骨盤周囲などの筋群も含まれ、実際の運動ではこれらが協調して身体を支えています。体幹は上半身と下半身をつなぎ、身体を安定させたり力を伝えたりするうえでも重要です。

そのため体幹トレーニングでは、単純に身体を固めるだけではなく、呼吸を続けながら姿勢を保ち、その状態で手足を動かせることも意識してみましょう[3]。

自宅で取り組みたい基本の体幹トレーニング

1.90/90呼吸

仰向けになり、股関節と膝をそれぞれ約90度に曲げます。足を壁につけると姿勢をつくりやすくなります。

鼻から息を吸い、口からゆっくり吐きましょう。 このとき、お腹を必要以上にへこませたり、腰を床へ強く押しつけたりする必要はありません。

まずは呼吸を止めずに、腹部全体をコントロールする感覚をつくります。5呼吸程度から始めてみましょう。


2.デッドバグ

仰向けで両腕を天井方向へ伸ばし、股関節と膝を曲げます。
そこから対角となる腕と脚をゆっくり伸ばし、元の位置へ戻します。
ポイントは、手足を遠くまで伸ばすことではありません。

手足が動いても、腰が大きく反ったり骨盤が傾いたりしない範囲で動かすことを優先しましょう。
左右5〜10回程度を目安に行います。


3.バードドッグ

四つ這いになり、片腕とその反対側の脚をゆっくり伸ばします。

腕や脚を高く上げるよりも、身体が左右に傾いたり、腰が大きく反ったりしないように意識します。
難しい場合は腕だけ、または脚だけを動かしても構いません。

左右5〜10回程度から始めましょう。


4.フロントプランク

うつ伏せから前腕とつま先で身体を支えます。

プランクでは「何秒耐えられるか」に意識が向きやすいですが、時間よりも姿勢を優先します。

お尻が上がる、腰が落ちる、呼吸が止まるといった変化が出たら、一度休みましょう。

まずは正しい姿勢と呼吸を維持できる時間で十分です。


5.サイドプランク

横向きになり、前腕と足で身体を支えます。

身体が「くの字」にならないよう、頭から足までのラインを意識します。
難しい場合は膝を床につけることで負荷を下げられます。左右とも、姿勢と呼吸を維持できる範囲で行いましょう。


“使える体幹”をつくるための一工夫

ここまで紹介した種目で姿勢を安定させられるようになったら、次は動きの中で体幹をコントロールすることを意識します。

スポーツでは、身体にかかる力は常に一定ではありません。
走れば手足が前後に動き、球技では投げる・打つといった動作が起こります。格闘技では、さらに相手との接触によって外から力が加わることもあります。

そこで取り入れたいのが、姿勢を崩すような刺激、いわゆる「外乱」です[4]。


・手足を動かしながら体幹を安定させる

特別な器具がなくても、デッドバグやバードドッグは「動きながら安定させる」練習になります。

デッドバグでは腕や脚を伸ばすことで身体にかかる負荷のバランスが変化します。

バードドッグでは、四つ這いから手足を浮かせることで支持する場所が減り、身体は傾いたり回旋したりしやすくなります。
その中で姿勢が大きく崩れないようにコントロールすることがポイントです。


・慣れたら外からの刺激も取り入れる

トレーニングパートナーがいる場合は、プランクなどの姿勢で肩周辺にごく軽い刺激を加えてもらい、それに対して姿勢を維持する方法もあります。
ただし、強く押したり、不意打ちのように大きな刺激を加えたりする必要はありません。

まずは基本姿勢を正しく維持できることを前提に、安全にコントロールできる範囲で刺激を加えていきましょう。


競技によって変わる「体幹の使い方」

体幹トレーニングの目的は、プランクの記録を伸ばすことだけではありません。

競技で求められる動きにつなげて考えることも重要です。
体幹トレーニングに関する研究では、バランスやジャンプ、投球・打撃距離など一部のパフォーマンス指標への改善が報告されています[5]。一方で、競技特異的な能力すべてが体幹トレーニングだけで向上するとはいえません[6]。


~ランニング~

走っている間は左右の腕と脚が繰り返し動きます。

その中で体幹が必要以上にブレないようコントロールすることで、四肢を動かすための土台をつくります。

デッドバグやバードドッグのような、対角線上の手足を動かしながら体幹をコントロールする種目は、その基礎づくりとして取り入れやすいでしょう。


~格闘技~

格闘技では、自分からパンチやキック、投げなどの力を生み出すだけでなく、相手から力を受ける場面があります。

筆者自身も柔道や空手などを経験してきましたが、競技では「自分だけが予定通りに動く」状況ばかりではありません。
基本的な体幹トレーニングができるようになったら、外から軽い刺激を加えるなど、外力に対して姿勢をコントロールする要素を加えるのもひとつの方法です。


~球技~

野球やサッカー、バスケットボールなどの球技でも、走る、止まる、方向を変える、投げる、打つといったさまざまな動作が連続します。

体幹トレーニングによってバランスやジャンプ、投球・打撃などの一部指標が改善したとする研究もあります[5]。

ただし、体幹トレーニングはあくまで身体づくりの一要素です。

実際の競技練習や筋力・パワートレーニングなどと組み合わせて行うことを意識しましょう。


自宅トレーニングを続けるためのポイント

1.フォームを優先する

「10回やらなければいけない」「1分耐えなければいけない」と考える必要はありません。

実際の指導でも、難しい種目を無理に続けることより、その人が身体をコントロールできる範囲で行うことを大切にしています。
フォームが大きく崩れてきたら一度休み、必要に応じて回数や難易度を下げましょう。


2.段階的に難易度を上げる

基本姿勢を維持できるようになったら、手足を大きく動かす、支持する場所を減らす、軽い外乱を加えるなど、少しずつ難易度を上げていきます。

いきなり難しいトレーニングに挑戦する必要はありません。
厚生労働省も、身体活動・運動について個人差を踏まえて強度や量を調整し、可能なものから取り組むことを推奨しています[7]。


3.無理なく継続する

厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人に対して筋力トレーニングを週2〜3日行うことが推奨されています。また、自分の体重を負荷として利用する自重トレーニングも筋力トレーニングに含まれます[7]。
これは「今回紹介した体幹トレーニングを必ず週2〜3日行う」という意味ではありません。
自分の体力や普段の運動量に合わせ、無理なく続けられる頻度から始めてみましょう。


まとめ

体幹トレーニングというと、腹筋運動やプランクを長時間行うイメージがあるかもしれません。
しかし、スポーツや日常生活では手足を動かし、ときには外から力を受けながら身体をコントロールしています。

今回注目した腹横筋は、腹直筋よりも深層に位置する筋肉です。ただし、腹横筋だけを単独で鍛えるのではなく、呼吸を続けながら体幹全体をコントロールし、手足の動きや外からの刺激が加わっても姿勢を保つことを意識してみましょう。

まずは90/90呼吸やデッドバグなどの基本から始め、バードドッグやプランクへ。さらに競技をしている方は、自分の競技で身体にどのような力が加わるのかを考えながら、トレーニングを発展させてみてください。



参考文献・参照元

[1]Hodges PW. Is there a role for transversus abdominis in lumbo-pelvic stability? Manual Therapy. 1999;4(2):74-86.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10509061/


[2]Cresswell AG, Grundström H, Thorstensson A. Observations on intra-abdominal pressure and patterns of abdominal intra-muscular activity in man. Acta Physiologica Scandinavica. 1992;144(4):409-418.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1534959/


[3]Hodges PW, Gandevia SC. Changes in intra-abdominal pressure during postural and respiratory activation of the human diaphragm. Journal of Applied Physiology. 2000;89(3):967-976.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10956340/


[4]Hodges PW, Cresswell AG, Thorstensson A. Perturbed upper limb movements cause short-latency postural responses in trunk muscles. Experimental Brain Research. 2001;138(2):243-250.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11417465/


[5]Rodríguez-Perea Á, et al. Core training and performance: a systematic review with meta-analysis. Biology of Sport. 2023;40(4):975-992.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37867742/


[6]Dong K, Yu T, Chun B. Effects of Core Training on Sport-Specific Performance of Athletes: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Behavioral Sciences. 2023;13(2):148.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36829378/


[7]厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index.html