野球では「捻転を使う」「捻転差を作る」といった言葉を聞きます。「腰を回す」「肩を残す」と言われても、体のどこを動かすのか迷うことがあるでしょう。
この記事では、骨盤と上部体幹がそれぞれ回旋し、両者の向きに違いが生じる動きを「捻転」として説明します。腰だけを強くひねる、という意味ではありません。

野球の捻転は、骨盤と上部体幹を分けて考える
「回旋」とは、体の部位が回る動きのことです。ここでは主に、体を真上から見たときの向きの変化に注目します。
骨盤はベルトの向きを目安にイメージする
骨盤の向きは、ズボンのベルトのバックルを目安にするとイメージしやすくなります。投球や打撃の途中で、バックルがどちらを向くかを思い浮かべてください。
これは向きをつかむための例えで、研究上の測定方法ではありません。
また、骨盤と、その上にある背骨の腰の部分「腰椎」は別の部位です。骨盤が回ることを、腰椎だけをねじることと同じには扱えません。
上部体幹は胸まわりを含む胴体上部
上部体幹は、胸まわりを含む胴体上部を指す言葉です。イメージするときは「胸がどちらを向いているか」と考えると分かりやすくなります。
ただし、研究で扱う上部体幹の向きは、測定のための目印から求めます。少年野球選手の打撃を調べた論文では、左右の肩峰という肩の骨の目印を結ぶ線を使って上部体幹の向きを測定しています。
胸の向きはあくまで説明上の目安です。上部体幹を胸郭そのものや、腕が動く肩関節と完全に同一視しないようにしましょう。
捻転差とは、同じ瞬間に見た骨盤と上部体幹の角度差
捻転が体幹のねじれを表すのに対し、ここでいう捻転差は、その状態を角度の差で表したものです。
真上から見て、2つの向きを比べる
骨盤と上部体幹に、それぞれ前向きの矢印を描いたと想像してください。
2本の矢印が同じ方向を向いていれば、両者の角度差は小さくなります。違う方向を向いていれば、その間に角度差が生じます。
例えば、骨盤が投球方向へ回っていても、上部体幹が同じ向きまで回っているとは限りません。
反対に、骨盤と上部体幹が同じだけ回り、両者の向きの差が変わらなければ、体全体は回っていても捻転差が大きくなったとはいえません。
論文では骨盤と上部体幹の角度差を測定している
少年野球選手の打撃を調べた論文では、頭部、上部体幹、骨盤、腕を分けて回旋角度を測定しています。
さらに、骨盤と上部体幹の回旋角度をそれぞれ求め、その差を「separation angle」として評価しています。
そのため、野球でよく使われる「肩と腰の捻転差」は、より具体的には骨盤と上部体幹の回旋角度の差と考えると分かりやすくなります。
捻転差は大きければよいわけではない
捻転差と聞くと、できるだけ体を大きくひねればよいと思うかもしれません。
しかし、この打撃研究が調べたのは、少年選手の成長に伴う動きの変化です。捻転差を大きくするほどよい、と証明した研究ではありません。
「捻転差を作る」を、限界まで強く体をねじる指示として受け取らないことが大切です。
全身の動きのつながりでは、角度とタイミングを区別する
骨盤や上部体幹の回旋は、投球や打撃の一部分です。捻転差だけで全身の動きを説明できるわけではありません。
投球では骨盤・上部体幹・腕の動きがつながる
投球動作についてまとめた論文では、踏み出した脚の膝の伸展、骨盤の回旋、上部体幹の回旋、肘の伸展、肩の内旋という運動のつながりが説明されています。
ここでいう連鎖は、一つの動きが完全に終わってから、次の部位が動き始めるという意味ではありません。
投球は腕だけの動作ではなく、下半身から骨盤、上部体幹、腕へと複数の部位が関わる動作として整理されています。
「どれだけ向きが違うか」と「いつ速く回るか」は別
角度差は、ある瞬間の姿勢を切り取って比べるものです。
一方、タイミングの差は、動作の時間経過の中で比べます。
投球動作をまとめた別の論文では、骨盤と上部体幹の回旋速度が最大になる時点の違いも研究されています。
つまり、「どれくらい向きが違うか」と「いつ速く回るか」は別の話です。
写真で骨盤と上部体幹の向きの違いが分かっても、それだけで回旋するタイミングまで判断できるわけではありません。
「腰を回す」「肩を残す」は、どの部位の話か確かめる
「腰を回す」と言われたら、骨盤の向きを変える話なのか、腰椎を含む腰まわりの動きなのかを分けて考える必要があります。
「肩を残す」も、肩関節だけを後ろに固定する指示と決めつけない方がよいでしょう。
捻転差について考えるなら、肩そのものではなく、骨盤に対して上部体幹がどちらを向いているかを見ると具体的になります。
「胸を残す」「胸が回る」という表現も、上部体幹をイメージする言葉としては分かりやすいものです。ただし、研究で扱う上部体幹と胸郭は完全に同じ意味ではありません。
野球の捻転を理解する出発点は、骨盤と上部体幹の向きを見分けることです。その角度差と、回旋するタイミングを分けて考えると、「腰」「肩」という言葉だけでは曖昧だった動きを整理しやすくなります。
参考文献
- Tsutsui et al.(2023)
少年野球選手の打撃中に、骨盤・上部体幹・腕などの回旋を測定した研究です。骨盤と上部体幹の回旋角度の差も調べています。
Longitudinal changes in youth baseball batting based on body rotation and separation - Diffendaffer et al.(2023)
野球の投球動作について、下半身から上部体幹、腕へと動きがつながる流れを整理した論文です。
The Clinician’s Guide to Baseball Pitching Biomechanics - Fortenbaugh et al.(2009)
投球時の骨盤・上部体幹の回旋タイミングなどを整理した論文です。
Baseball Pitching Biomechanics in Relation to Injury Risk and Performance