バッターを翻弄するピッチトンネルとは?

ラブソートやトラックマンといったトラッキング機器によって、ボールの回転数や打球速度が数値化されるようになった現代の野球界。

そんな中、メジャーリーグや日本プロ野球の世界で、ピッチトンネルと呼ばれる理論が普及している。
ピッチトンネル理論とは、ストレートや変化球といった複数の球種を近い軌道から変化させることで、バッターに対してボールの判別を難しくさせるものだ。
バッターが、ボールの判別ができるのは、ホームベースから約7メートルの位置と言われている。ピッチャーは、その位置に仮想上のトンネルを描いて、どの球種もトンネルを通過するイメージで投球する。
そうすることで、トンネルまではボールの軌道は同じとなるため、バッターは全て同じ球種に見え、トンネル通過後のボールの変化に対応できないのだ。

これがピッチトンネルの大まかな理論だが、ピッチトンネル理論は、あくまで選択肢の一である。

例えば、佐々木朗希投手(千葉ロッテマリーンズ)の160キロ超のストレートが投げられたり、千賀滉大投手(ニューヨーク・メッツ)のようにお化けフォークと呼ばれる決め球を投げられたりする投手には、必要のない理論かもしれない。
それでも、多くの投手がピッチトンネル理論を取り入れており、プロの世界にとどまらず、高校野球といったアマチュア野球にも、その波が押し寄せている。

ダルビッシュ有の発信がきっかけ?高校野球にも取り入れられたピッチトンネル

ピッチトンネルは、2017年にアメリカのデータサイト「ベースボール・プロスペクタス」で初めて提唱された理論とされる。
日本へは、メジャーリーグで活躍するダルビッシュ有投手(サンディエゴ・パドレス)の発信から、ピッチトンネル理論が広がった。

そして、インターネットが普及し、誰でも簡単に情報にアクセスできるようになった現代。
一流選手の発信により、現代の高校生にも、ピッチトンネル理論は広まっていった。
当時市立和歌山高に在籍していた小園健太投手(現横浜DeNAベイスターズ)が、ピッチトンネル理論を取り入れていたことで、大きな話題になった。
小園投手は、高校ナンバーワン投手と高い評価を得て、ドラフト1位でプロの世界に入った逸材だ。
最速152キロのストレートを投げるが、そのストレートと似た軌道のカットボールやツーシームを操り、バッターを翻弄する投球術が光った。

近年は、アマチュア野球でも、変化の大きい球種よりも、ツーシームやカットボールといった変化の小さい球種を操る投手が増えてきている。
小園投手が取り入れたことにより、高校野球界で話題となったピッチトンネルたが、トレンドになっているように今では多くのアマチュア選手が取り入れている。

ピッチトンネルの習得法

プロの世界では、ラブソートなどの投球計測機器を用いることで、自身の投球分析が可能となり、ピッチトンネルの習得が比較的容易となっている。
一方で、トラッキング機器のないチームでも、ピッチトンネル理論を習得することは可能だ。
実際に先ほど取り上げた小園投手は、ネットの記事などを参考にピッチトンネルを取り入れたようだ。

ピッチトンネル理論を取り入れるには、まずカットボールやシュート、ツーシームといった変化量は小さいが、ストレートと同じ軌道の球種をマスターすることが必要である。
もちろん、ピッチトンネルを通さず、バッターの目線を変えるカーブなどのボールも有効な球種だが、ピッチトンネルを使うには、変化量の小さい球種の習得がマストである。

そして、それらの変化球をなるべくバッターの手元、つまりはピッチトンネルを通過した後に変化させることが求められる。

また、バッターに球種を絞らせないことが、ピッチトンネル理論の醍醐味のため、ストレートと変化球で腕の振りやリリースポイントの差をなくしておくことが重要だ。
例え、ストレートと同じ軌道でピッチトンネルを通過しても、腕の振りの違いで球種がばれてしまうケースが多い。

まとめると、ピッチトンネルの習得には、主に下記の3つの練習が必要になる。

  • ストレートと近い軌道の変化球の習得
  • 変化球をバッターの手元で曲がるように練習する
  • ストレートと変化球を同じリリース、腕の振りで投げる

その他にもコントロールやフィールディングや牽制といった投手としての基本的なスキルも同時に磨く必要があり、大変な作業になるかもしれない。
それでも、習得すれば、大きな武器となる理論である。

最後に

当記事では、現代野球の常識になりつつあるピッチトンネル理論について、解説した。

バッター目線からすると、ピッチトンネルを駆使した投球は非常に打ちづらく、バットにボールが当たっても、どの球種を打ったか分からないことすら多々ある。
そのため、ボールを打つポイントを近くして、ギリギリまでボールを見極めるなどの対応が迫られる。

アマチュア野球でも、ピッチトンネルは非常に有効な投球スタイルだ。
自分の強みを生かした投球スタイルを心掛けながらも、ピッチトンネルが取り入れられそうであれば、試してみることをおすすめする。