近年、日本の陸上競技のレベルが上がっており、
世界で活躍する選手も多くいる。
アマチュアレベルでも、クラブチームで陸上競技を
している社会人は増えている。

健康のためのランニングブームもあり
さまざまな世代に”走る”ことが
広まっているように感じる。
中高生の部活動でも陸上競技部がある学校は多くある。

競技人数や競技自体の知名度は
まだまだ発展中であるが、注目を
集めている競技であることは間違いない。

陸上競技の花形と言えば、
代表的なものは100mであろう。
誰であっても”速く走る”ことは、
シンプルではあるが最高のパフォーマンスで
あるに違いない。せっかく走るならば、
速く走りたいという思いもあるだろう。

私は、中学・高校・大学と陸上競技で
短距離の選手をしていた。
その後はスポーツ医療系の専門学校へ進学し、
自身の経験や勉強していることを活かして
大学の陸上競技部でトレーナー活動を行なっていた。

卒業後もまた、自身が選手として
競技復帰をしており、クラブチームのトレーナーを
しながら、日々練習に取り組んでいる。

これまで15年ほど陸上競技に関わっている中で、
私が最も重要だと感じていることの1つが
”地面からの反発を活かす” ことである。
これは競技力向上のみでなく、
力の伝え方や身体の使い方が効率的になる。
したがって、無駄のない動きになるので
ケガの防止にも繋がると考えている。

これから紹介する地面からの反発を
活かした走りの技術や意識は、
速く走るための1つの考え方である。

短距離スプリンターだけでなく、
長距離やマラソンなどランニングを
嗜む人にもぜひ読んで頂きたい。
さらには他のスポーツにも活きることも
あるので是非参考にして頂きたい。

なぜ地面からの反発が重要か

地面からの反発を活かすとは

速く走るためには、地面からの反発は
重要である。ところで、
”地面からの反発を活かす”
とはどういうことか。

地面からの反発を活かす=「地面反力」を「推進力」
に変えて効率的に走るということ
であり、速く走るために必要なことである。
むしろ地面からの反発がなければ前に
走ることはできない。

前に進むためには
「地面反力」と「推進力」が必要であり
この2つが大きな地面からの反発を生み
前に進む力を得ることができるため
速く走ることができる。

地面から力を得る

地面からの反発を得ることが
できるのは、地面に足が接地している
瞬間のみである。

上記にある「地面反力」と「前傾姿勢」が
加わることで自然と前に進むことができる。

走動作においては、地面を斜め後方への
押し込み動作「プッシュ」が前方への
大きな推進力に変わる。

次にそれぞれの力について詳しく話す。

前に進むための力成分

重力。地面反力

人間の身体には重力がかかっている。
この重力が地面を押すことで、
作用反作用が働き地面から反力が返ってくる。
これが「地面反力」である。
前に進むために力成分の1つ目である。

「地面反力」は垂直方向で上向きの力である。
それだけでは前に進むことはできない。
それを前に進む力にするには
「前傾姿勢」と「プッシュ」が必要である。
これら2つが合わさって前方成分となり、
身体を前方に動かす2つ目の力である。

体幹固定・上体前景・骨盤前傾

「前傾姿勢」で大切なのは骨盤の前傾である。
短距離走においては上半身の前傾も含まれる。
骨盤が前傾姿勢で、
体幹部を固める(腹筋に力を入れる)ことが
できていれば、もも上げをすると
自然と前に進む。身体が前のめりに
なることで勝手に前方に進むというイメージだ。

プッシュ・プッシュの反力

地面を斜め後方に押し込むことを
「プッシュ」という。
押し込んだ分だけ同様に、作用反作用で
反力が返ってくる。

「前傾姿勢」を維持したまま
「プッシュ」ができるとより
大きな斜め前方向への力が得られる。
走動作においては推進力に大きく貢献する。

前に進む力を得る

上記の「地面反力」(上方向)と
「プッシュ」(反力:斜め前方)が合わさって
大きな推進力に変換されることで
走ることができる。

さらに走動作をこのように分解することが
できると私は考えている。

推進力・プッシュの反力・地面反力

ここまではあくまで理論的なことを
話してきた。以降は実際の走りに活かして
より大きな推進力を得るためについての
ポイントを解説していく。

大きな推進力を得るには

大きな地面反力を得る

地面反力の正体は重力の作用反作用に
よって得られる力である。
重力は真下方向に働いて体重に
比例して大きくなる。

つまり、重力以上のより大きな地面反力を
得るには地面を強く踏むことが必要である。

しかし、大きな地面反力を得られたとしても
最大限活かせなければ意味がない。
例えば、ジャンプして着地をする際に
地面からの衝撃を受け止めるために
自然と股関節・膝・足首を曲げて
クッションのようにする動きを想像してほしい。

体操選手の着地をイメージすると
わかりやすいだろう。着地動作では
この姿勢は地面反力を上手に逃して
ピタッと静止するのにふさわしい。

せっかく得た地面反力を
最大限活かすにはその逆をすればよい。

体幹部(特に下腹部:丹田)に力を入れて固め
股関節は直立姿勢、膝は軽く曲がった角度を
維持し、足首が潰れないように下半身全体に
力を入れる。グニャっと曲がらず、しなるように
衝撃を受け止めるイメージだ。

上方向の力を前へ

前項目で話した通り、上方向の地面反力を
前方向の推進力に変えるには、前傾姿勢と
プッシュが大事である。

だが本項目では、より大きな推進力を
得るための解説であるので、上記内容を
含めてポイントを話していく。

前傾姿勢は先ほど話したように体幹・下半身を
固めることを意識しておく。
常に頭〜骨盤〜足首を一直線に
しながら全身を進行方向に傾ける。

プッシュも同様に体幹・下半身を
固める意識は重要である。

地面を斜め後方に押し込んで身体を前に進める。
地面反力が前傾姿勢で前方に導かれ、強く地面を
押すことで大きな推進力を生み出す。

したがって返ってきた力を効率的に
活かすために、下半身を一直線にして
上半身へと繋げていくことで遠くに
蹴り出すことができる。

その上で次の動作に繋げる足運びは
蹴り出した脚の膝を素早くたたんで
お尻の下にかかとを引き付ける動きである。
いわゆる”脚が流れる”動きにならないようにする。

結論:地面からの反発を活かした走りとは

地面からの反発を活かす=地面反力
を推進力に変えて効率的に走ることである。
何度も言うが、これが言葉の意味合いである。
つまり、上記の説明から
地面反力 + プッシュ(前傾姿勢を含む)
でより大きな推進力を得ることである。

これが地面からの反発を活かした走り
の正体である。これを実現できているときは
”前に跳んでいるような感覚”
”勝手に脚が前に出る”
”身体が軽く感じる”
といった走りになる。

その走りを客観的に見ると
”力感がなくメリハリのある走り”
のように見える。

地面からの反発を得るための練習

いくつかドリルの例を掲載する。
一般的な名称で記載するので
詳しくは各自で分かりやすい動画を
見つけて参照してほしい。

アンクルホップ

足首・膝を固定してグニャっと
曲がらないように弾む。

股関節と体幹も崩れないようにして
タイミング良く腕振りを忘れない。

上手く地面から反発を貰えていると、
衝撃が頭へと抜けていき、高く弾むことができる。
頭〜骨盤〜足首が一直線の姿勢を
意識して反発がより身体の上の方まで
返ってくる感覚を身につける。

衝撃が上半身まで抜けていない例では
膝が崩れていたり、腰が痛くなることが
あるので注意して頂きたい。

初めは小さなジャンプから始めて
徐々に大きくする。

高く・遠く・速くなどと強度を
上げながら行うとよい。

両足で慣れてきたら、
片足(ケンケンをするような動き)や
左右交互(スキップのような動き)で
強度を上げていくとよい。

スキップ

足首・膝を固定してグニャっと
曲がらないようにしながら
地面を後ろにグンっと押す。

こちらもタイミング良く腕振りをする。
アンクルホップの反発をもらう感覚を
意識しつつ、前に進む感覚を習得する。

蹴り出した脚を素早く引き付けないと
上手くスキップができないので
同時に足運びも意識して習得したい。

初めは小さなステップから始めて徐々に
大きくする。高く跳ぶスキップ・遠くに
跳ぶスキップ・速いスキップなどと
意識するポイントをはっきりさせて
行うのも効果的である。

バウンディング

足首・膝を固定してグニャっと
曲がらないようにして、身体の下で
接地してパンっと前に弾む。

アンクルホップやスキップよりも
1歩で大きく跳ぶので負荷も強く
フォームが崩れやすいので注意する。

同様に初めは小さなステップから
始めて正確に行うことが重要である。
できるようになれば徐々に大きくする。

  • 高く跳ぶバウンディング
  • 遠くに跳ぶバウンディング
  • 速いバウンディング

など、ポイントを分けて行うのもよい。

他にもさまざまなドリルが存在するが、
地面からの反発を意識しやすいドリルを
紹介した。

その他のドリルや、自分のルーティンの
ドリルでも地面からの反発を
意識しながら行うとよい。

ジョギングや軽いランニングにおいても
常にポイントを意識し続けることで
地面からの反発を生かした走りを
習得しやすいだろう。

まとめ

地面からの反発を得るということが
どういうことかを考えて、分解して習得する。

常に意識をすることで
良かった点・悪かった点をフィードバックして
少しずつ自分のものにしてほしい。

最初はできなくても、やろうとすることが
習得のために大切である。

ここまで読んでくれた人は
地面からの反発を活かした走りに
ついて理解が深まってきていることを
願っている。

1つでも読者の走りに活きて
速く走る技術・意識を得る助けに
なれば幸いである。