バスケットでの動きでは、俊敏な動きが不可欠。
プレイの「初動」が速ければ速いほど、マッチアップする相手を凌駕できることは間違いない。
ところで、このバスケットにおける「初動」はどのようにして手に入れればよいのだろう?このヒントは、動物界における狩りのエキスパートである「ネコ科」の運動特性にあるかもしれない。
獲物を狙うときのネコ科の動きは、初動が爆発的で一瞬だ。
獲物よりも初動を速く制した場合に狩りは成功する。
バスケットも「狩り」であり、「ボール」や「ゴール」という獲物を狙う為に、いかに初動を制するかがカギとなる。
そんな爆発的初動を生み出す、ネコ科の運動特性について深堀りしてみたい。
ネコ科から学ぶ「狩り」の初動
「ネコ科」といえば、柔軟で素早く高いジャンプ力を持ち、バランス能力が高い動物で知られていることはよくご存じだろう。
これだけの能力が人間に備わっていたらどれだけのことができるだろう。
バスケットボール競技だけではなく、あらゆる競技のアスリートからしてみてもうらやましい限りの身体能力だ。
そんなネコ科のずば抜けた運動特性を少しでもバスケットに取り入れられないだろうか。
ネコ科についてはあらゆる動物運動学的研究があるが、まずは基本的なネコ科の5大運動特性は以下の通りだ。
- 素早い動き
- 優れたバランス感覚
- 高い跳躍力
- 柔軟性と俊敏性
- 隠れる能力
どれも、魅力的な能力だが、この項ではとくに、初動に必要な「④柔軟性と俊敏性」について抑えておきたい。
「ネコ科の狩り」を見たことがあるだろうか。
飼猫がおもちゃをめがけて飛び掛かる姿、森の中で茂みに隠れて急に飛び出すトラや、広大なサバンナの中で草食動物を追いかけるチーターやライオンでもいい。
いずれも、腹部が地面に付くほどの低姿勢からスタートすることをご存じだろうか。
地上で最も速い足を持つチーターは、狩りをスタートしてからほんの2秒で65kmの最大速度に到達する。
この2秒という時間は初動で爆発的な走り出しを見せるからこそ成せる技だ。
なぜ、この2秒を作り出せるのか?
ネコ科は狩りの前に柔軟な体でいつでも出撃できる低姿勢を保持することができる。
さらに、筋肉をカチコチに固めて獲物に近づいていくのではなく、ゆっくりと脱力しながらも低姿勢で臨戦態勢に入っていける所がマックススピードにつながる最大のポイントなのだ。
もし、最大のパフォーマンスを出そうとして力んでしまえば、それこそ初動に失敗して逆にパフォーマンスを落としてしまうだろう。
ネコ科から学ぶ運動特性「狩り」のすごさには、ずば抜けた柔軟性から得られる「脱力と低姿勢」にあったのだ。
では、脱力と低姿勢はパフォーマンスにどのような効果を生みだすのだろう。
脱力と低姿勢の重要性
ネコ科は狩りの前に、最小限の筋力で脱力しながら低姿勢で獲物に近づいていく。
無駄な力は初動を遅くし、パフォーマンスに遅れを生じさせてしまう。
これは狩りにおいて致命的だ。
では脱力と低姿勢はなぜこんなにも初動に重要なのか紐解いていきたい。
脱力の重要性
動き出しおける「脱力」は、「等張性収縮」と「安定したメンタル」のセットで容易に獲得できる。
「等張性収縮」とは
筋肉は収縮し、人体を動かす機能を持っているが、この収縮形態は2種類ある。
等張性収縮と等尺性収縮だ。
- 等張性収縮
- 関節を動かすための筋肉の収縮形態で、関節を曲げたり伸ばしたりするときに必要となる。
- 等尺性収縮
- 関節を固定するための筋肉の収縮形態であり、反射的・心理的要素が大きく影響を及ぼす。例えば、危険が迫り、とっさに身を守る為に体が固くなるなどの現象がこれである。
バスケットにおいての動き出しには、等張性収縮を主とした筋肉の収縮形態が不可欠で、この等張性収縮をいつでも円滑に発揮できるかがカギとなる。
「安定したメンタル」とは
これから動作を始めるというときに、過度な不安や緊張、相手からのプレッシャーなどといった心理的要素が大きく絡み、大きくパフォーマンスを低下させることがある。
筋肉の収縮はこのような心理的要素を大きく反映する。
具体的な例でいえば、急にバスケットボールが顔めがけて飛んできたとしよう。
大抵の人は、全身の筋肉を固めて防御的に身を守ろうとする。
この時には一時的にではあるが全身の筋肉で等尺性収縮が起きており、怖い思いをしたときにとっさに動けないのはこの性でもある。
また、大勢の前で何かを発表したりするとき、いかり肩になる肩を見たこともあるだろう。
この姿勢も肩甲骨を挙上させてしまう筋肉が等尺性収縮している姿勢で、いわば緊張姿勢の代名詞とも言える。
このように、心理的不安や緊張は体の姿勢や筋肉に大きく作用することがおわかりだろう。
しなやかな動きかつ初動を速くするのであれば、等尺性収縮の要素をできるだけ断ち切る必要がある。
脱力状態を保つためには、無駄な心理的不安や緊張をものともしないメンタルコントロールが大事になる。
トップアスリートはこのメンタルコントロールを欠かさない。
大勢の前でのパフォーマンスや記者会見で物怖じしない表情を見ればその効果はわかるはずだ。
低姿勢の重要性
ネコ科の狩りは低姿勢であることは述べてきたが、これには二つの目的がある。
- 草場やしげみに身を隠すためのカモフラージュ効果
- いつでも地面を蹴りだして、爆発的な初動を得る効果
とくに②に注目してみたい。
動物は自分の重力に打ち勝って、地面から力をもらって歩いたり走ったりする。
これを「床反力」というが、まさにネコ科はこれを使って爆発的な走力を発揮する。
動物が走り出す時の床反力は、自分の足が設置している斜め上方向に向かって出ている。
ダッシュするときの人間の傾きは、床に対して若干ではあるが斜め方向に倒れて進む。
これはつまり床反力と自分の体重を上手くマッチさせて走れている証拠だ。
バスケットのディフェンスで考えてみる
これをバスケットのディフェンスにあてはめてみよう。
床反力を上手く捕まえながら、低姿勢を保てている選手は足はバランスよく筋収縮できていて、相手のどんなオフェンスにも対応できる傾向にある。
しかし、一見手を出して相手に攻めるようなディフェンスをしていても、重心が高ければ、床反力を捕まえられず、相手に振り切られてしまうことが多くなるだろう。
また、床反力が得られないどころか、体幹を前傾させて重心が前方に移動してしまうので、両足の無駄な筋力を使ってしまい、脱力を保てない状況となってしまうので、なおさら動けない体制となってしまうのだ。
この姿勢でもっとも、使用している筋肉はハムストリングス、下腿三頭筋といった、いわばブレーキ作用を持つ大きい筋肉になる。
ただでさえブレーキの作用の高い筋肉をフルに使ってしまえば、初動対応は上手くいかず、スタミナ疲労も速いだろう。
まとめ
ネコ科動物のパフォーマンスを生みだす脱力と低姿勢について述べてきた。
同じ動物でもネコ科と人間は違いはあれど、筋肉の収縮や脱力、重心の低さ、自然な重力や床反力といった運動に必要な条件は共通している所も多い。
もともと四足獣から2足歩行になった人間が、再び四足獣の動物を真似した姿勢や動きを取り入れることは、野生に帰ることができる瞬間であり、パフォーマンスを向上させる為の突破口になるのかもしれない。