物理学的な視点を野球に応用して生まれたLAS理論
LAS理論という理論を聞いたことはあるだろうか。
もしかしたら、馴染みのない理論のように聞こえるかもしれないが、プロアマ問わず多くの野球選手が知らず知らずのうちに取り入れている理論だ。
LAS理論とは、Long Arm Spinの略語。
人間の運動は、全て関節を中心とした円運動で行われていることに着目し
「円運動の中で、どのような動作を行えば、効率的にボールを加速させることができるのか?」
を物理学的な視点で考えたものである。
野球において、ピッチャーで言えば、いかにしてボールに力を伝え、速いボールを投げることができるか。
バッターで言えば、いかにしてバットを加速させ、強い打球を打つことができるかについての動作を物理的な視点で理論だてたものだ。
LAS理論は、野球ラボ『ブルペン』で独自に提唱された理論で、今回はピッチャー、バッターと視点を分けて紹介していきたい。
LAS理論を用いたピッチング動作
冒頭でも上述したように、人間の全ての運動は円運動で成り立っている。
野球のプレーにおいてもピッチングやバッティングも円運動で行われている。
その円運動でいかにしてボールを加速させるかを説明したい。
LAS理論を用いたピッチング動作として、大きく2つのポイントが挙げられる。
1点目は、体重移動の速度である。
当たり前の話だが、投球を行う際には、軸足から踏み出した足へ体重移動が行われる。
その体重の移動速度が速ければ、それだけの速度を投げるボールに伝えることができるというものだ。
これは、分かりやすい技術で多くのピッチャーが取り入れているだろう。
そして2点目は、左股関節(右投げの場合)を軸にし、リリース時の指先から軸までの長さを大きくすることだ。
LAS理論の由来となっている、Long Arm Spin(長い腕の回転)の意味通り、リリース時の指先が描く円の半径を長くして、ボールを投げることが重要になる。
画像の赤い点線のような形になれば、理想と言える。
物理の法則において、円運動の速度は、中心の回転の速さとその半径の長さに比例する。
つまり、力強いボールを投げる上で、体重移動の速度(中心の回転の速さ)とリリース時の指先から軸までの長さ(半径)が関係しているのだ。
LAS理論を提唱した野球ラボ『ブルペン』では、この指先から軸までの半径が長い理想的なリリースを、LASリリースと呼んでいる。
LASリリースは、力強いボールを投げられるだけでなく、コントロールの面にもおいても有効である。
物理の法則において、円が大きくなるほど、リリースのタイミングのズレがなくなるからだ。
多くの投手がコントロールで苦しむ原因として挙げられるのが、リリースの位置や角度などが安定しないことだ。
リリースの安定には、テイクバックや身体の開きなど様々な要因を考慮する必要があるが、LASリリースにより、リリースのズレが少なくなり、コントロールのズレも少なくなると考えられる。
LAS理論を用いたバッティング動作
LAS理論を用いたバッティング動作も、基本的な原理はピッチング動作と同一であるが、留意しなければならない点が2点ある。
バットという重い道具を持っていること、ピッチャーが投げてきたボールを打つという受動的な動作であることだ。
しかし、考え方は同じで、体重移動の速度を上げ、円運動でバットを走らせて、強い打球を飛ばすことに変わりはない。
バッティングにおいてもピッチング同様に体重移動が不可欠である。
バッティングでは、その重心を軸に、スイングという円運動が行われる。
ピッチング動作で「リリース時の指先から軸までの長さを大きくすること」を取り上げたが、バッティングでは、トップからインパクト(バットとボールがぶつかるポイント)までの長さがこれにあたる。
よくトップからインパクトまでは最短距離というような指導をされるが、最短距離のスイングでも、特にバットの芯を正しい方向に加速させることが重要になる。
バットの芯を正しい加速させるためには、右手を強く押込むことと左手を身体の近くに付けること(右打者の場合)がLAS理論を用いたバッティング動作におけるポイントだ。
動作改善に不可欠なコンディション
LAS理論を用いた動作を行うには、体作りなどのコンディショニングが重要である。
筋肉や関節が正常に動かなければ、正しい動作を行えないからである。
反対に筋肉や関節が正常に動かない状態で、トレーニングを行うと、正しい成果が上がらず、怪我に繋がる恐れがある。
野球ラボ『ブルペン』では、主に2つのコンディショニング方法を提唱している。
- バランスの良い栄養補給
- 背骨を中心とした全身の関節の動き
栄養補給については、本記事では割愛するが、背骨を中心とした全身の関節の動きを良くすることはLAS理論を遂行する上でも、不可欠な要素だ。
特に骨盤や関節の前後差や左右差はないか、不調なく自由に動かせるかがポイントとなる。
こうしたコンディショニングは、LAS理論に用いる、用いらないに関わらず
アスリートにとっては、重要なことではあるが、LAS理論では動作改善と身体作りを
一体化させることを説いている。
最後に
LAS理論は、技術向上において非常に参考になる理論である。
そして、選手によって、「合う、合わない」ではなく、共通性のあるものだ。
この理論を取り入れる上で、自分がどういう動作をしているのかを理解することが必要だ。
ゴール(LAS理論を取り入れた後の理想形)を目指すには、まずは自分の立ち位置、現状を知る必要がある。
昨今は投球及び打撃フォームの映像解析が進んでいる。映像機器の利用が難しいアマチュア選手でも、スマートフォンで自分のプレー映像を撮影することが可能だ。
まずは自分の動作がどのようなものなのか、把握するところからスタートしてほしい。