「左利きはスポーツで有利」
スポーツをする人なら、一度は耳にしたことがあるのではないだろうか?
たしかに、左利きで活躍している選手は大勢いる。
野球なら長年メジャーリーグで活躍したイチロー選手、卓球なら石川佳純選手など、知性と華やかさを兼ね備えた選手が多い印象だ。
なんと「左利きのすごさ」は、脳科学でもすでに証明されている。
左利きの脳内科医である加藤俊徳医師によると、普段から両手を使う場面が多い左利きは、脳の活性化が右利きより多いと言う。
カンタンに言うと強制的に右手を使う場面が多いので、脳内では毎日筋トレが行われているということだ。
たしかに自動改札機のタッチパネル、自動販売機のコイン投入口などは右利き用に作られている。
日本人における左利きは人口の10%程度のため、少数派である左利きの意向は後回しだ。
「どちらの手を使うべきか?」
左利きはこの疑問に対し無意識に回答することで、脳への刺激を与え続けている。
だからこそ、既存の枠にとらわれない「発想力」や「独創性」などが生まれ、左利きはすごいと言われるようになった。
スポーツという視点に戻すと、実は「左利きがすごい」と証明できるスポーツがある。
それが「バドミントン」だ。
実はバドミントンで使用する球(シャトル)は、左利きにとって有利に作られている。
詳細は後ほど解説するので、まずバドミントンの魅力について述べておこう。
バドミントン最大の魅力は、スピード感あふれる高速ラリーだ。
スマッシュのギネス世界記録は493キロ。
新幹線の最高速度を上回るどころか、2027年開通予定のリニア新幹線(約500キロ)とほぼ同じスピードを誇る。
そんな異次元ともいえるスピード勝負の中で、日本の実力はどれほどのものなのか。
なんと「世界ランキング2位!」
2023年4月現在、日本はBWF(世界バドミントン連盟)が発表する国別ランキングで2位の座に君臨している。
また種目別ランキングでも、女子シングルス世界1位(山口茜選手)、女子ダブルス世界2位(志田・松山選手)、混合ダブルス世界2位(渡辺・東野選手)など、世界トップクラスの実力を誇っている。
日本人も活躍するバドミントンにおいて、左利きが有利とはどういうことか?
そこには、たった5gのシャトルに隠された秘密が大いに関係している。

「たった5g」に秘めた優位性を生み出すシャトルの構造とは

バドミントンで左利きの優位性を説明するためには、シャトルの基本構造を理解する必要がある。
シャトルはガチョウやアヒルなど、水鳥の羽根を16枚重ねて作られる。
羽根同士がわずかに重なるように向きを調整してコルクに差し、糸で束ねた後に樹脂で固定し、1個のシャトルが完成する。
シャトルの重さはたったの5g。
1円玉、5枚分しかない。
しかしこの独特な構造によって、左利きにとって有利な「回転」が生み出される。
シャトルを打ち出した瞬間、一旦は細くしぼむものの、徐々に復元しつつ時計回り(シャトルを上から見た場合)に回転しながら飛行していく。
並べられた羽根に沿って、空気抵抗を受けるからである。
この特性を利用することで右利きにはマネできないショットと戦術を駆使し、左利きはコート上で有利にパフォーマンスを発揮するのだ。

左利きが有利と言われる2つの理由

「バドミントンにおいて左利きが有利」
そう言われる理由は、2つある。
1つ目は、左利きのフォアハンドから打ち出すショットの回転がかかりやすいことだ。
カットスマッシュと呼ばれ、シャトルに対して面を切るように打つショットである。
右利きでもカットスマッシュは打てるが、左利きのカットスマッシュは一味違う。
ここで、シャトルの「回転」が大きく作用する。
時計回りの回転に沿ったフォアハンドのカットは、シャトルに高速回転を加える。
シャトルの飛び出しこそ右利きと変わらないが、高速回転によって空気抵抗も増すのだ。
シャトルの形が復元し始めると、シャトルのスピードに急激なブレーキがかかる。
「スイングスピードは速いのに、シャトルが手前に落ちる」
左利きに慣れていない選手は、そんな予測を裏切るシャトルの動きに体勢を崩してしまうのだ。
高速ラリーが主流のバドミントンにおいて、シャトルの速度は目で追える範囲をすでに超えている。
したがって、スイングスピードや打球音、フォームなど、「経験」によって培った情報を瞬時に解析し、ショットの予測を立てている。
つまり左利きのカットスマッシュは、相手の予測を裏切ることで貴重な1点をもぎとる強力な武器なのである。
2つ目は右利きと比べ、練習する機会に圧倒的な差が生じることだ。
左利きは常に右利きと練習できるが、右利きが左利きと練習できる機会は限られてしまう。
冒頭で説明したとおり、日本人の左利きの割合は約10%である。
実際に部活動やクラブ内に在籍する左利きが、0人や1人の場合も珍しくない。
さらに左利きの厄介な点として、右利きの苦手コースこそ左利きがもっとも得意とするコースなのである。
一般的なプレイヤーの苦手なコースは「バックハンド」であり、その中でも肩から上の高さは特に打ちづらい。
この場所を「ラウンド」と呼び、バドミントンの基本戦術はバック側やラウンド側を狙うことで相手のミスを誘う。
しかし右利きと左利きでは、苦手コースも逆なのだ。
ついつい慣れている右利きの苦手コースに打ったら、左利きのフォアハンドの餌食になったという場面も珍しくない。
慣れとはおそろしいもので、試合本番で急に打つコースを変えることは、10年以上プレーしている上級者でもカンタンではない。
よって、相手の予測を裏切るカットスマッシュと、練習機会の少なさによる戦術の切り替えづらさが、左利きにとって有利と言える2つの理由だ。

左利きの得意戦術とは

基礎を積み上げた選手ほどフォームが似るように、左利きにも得意とする戦術がある。
左利きの主なプレースタイルとして、オフェンス(攻め)主体の選手が多い。
理由は前述のとおり、シャトルの構造を活かしたショットのキレをフル活用できるからだ。
具体的には、フォアハンドの肩口にきたコースに飛びつき、クロスに強打することで相手のバックハンドに攻め込む戦法が挙げられる。
俗に言う「クロスファイア」である。
クロスファイアを成立させるためには、相手がフォアハンドに球を送り出してくれるよう、自らゲームメイクする必要がある。
これこそ「左利きの戦術」である。
一例としてシングルスでの基本戦術は、対戦相手が右利きの場合、フォア側奥へシャトルを集めることが多くなる。
相手にクリア(コート奥へ大きく飛ばすショット)をストレートに打たせることで、フォアからのクロススマッシュを打ち込むのだ。
さらにゲーム序盤では、あえてエースショットであるクロスファイアを多用する選手もいる。
「クロスファイアに対して、相手はどのように返球をするのか」
相手の反応(レシーブ)をみて、対戦相手が左利きに慣れているかどうかを観測する。
つまり、情報収集を行っているのだ。
クロススマッシュは「得点を奪うエースショット」と「相手のリサーチ」を兼ね備えた代物ともいえるだろう。
「得点」と「情報」を積み重ねることで対戦相手への戦術が整い、勝ちへの道筋を見つけるのだ。

対左利きの攻略方法とは

ここまで聞くと「左利きしか勝てないのではないか」と思うかもしれないが、安心してほしい。
圧倒的有利に見える左利きに対しても、攻略の糸口は存在する。
まず事前準備として、左利きと練習する機会を増やすことが求められる。
頭で理解しているだけでは、コート上で役立つことは少ない。
ショットの切れ味を身体に刻むことで、初めて対策が練れるのだ。
またシングルスとダブルスでは戦い方が全く異なるので、それぞれ攻略方法を身につける必要がある。
共通点があるとすれば、しつこいくらい同じことをくり返すことだ。
はじめにシングルスの場合、しつこいくらいバックハンドを狙う。
バックハンドの奥にあたるラウンド側にシャトルを集め、フォアハンドで打つ機会をとことん減らしていく。
例え、ラウンド側への配球を読まれたとしても心を折らずにくり返していく必要がある。
そのくらい、左利きのフォアハンドは脅威なのだ。
次にダブルスでは、しつこいくらいコートのど真ん中にシャトルを打ち込んでいく。
左利きの選手は、右利きとペアを組むことが多い。
理由はコートサイドからクロスに打つと、パートナーはフォアハンドで打つことができるからだ。
お互いがフォアで打ち合える点は、左利きと右利きがペアを組む最大のメリットであり武器である。
この武器を封じるためには、できる限りクロスに打たせないようにするしかない。
だからこそ、徹底的にコートの真ん中へ打ち続ける必要があるのだ。
以上、シングルス・ダブルスともに、フォアハンドへの配球を最小限に抑えるかが勝敗を左右することを忘れないでほしい。

まとめ

バドミントンは、ラリースピードとダイナミックさが魅力の競技だ。
しかしダイナミックなプレーの中には、綿密に計算された戦略や駆け引きが繰り広げられている。
冒頭でお伝えしたとおり、日本のバドミントンは世界トップクラスだ。
ぜひ日本人選手を応援しながら、世界レベルのプレーを間近で感じてほしい。
そして、ご自身でもバドミントンをプレーすることをおすすめする。
実際にショットを受けてみることで、左利きのショットの違いも体験できるからだ。
なにより、シャトルを打ったときの「打球感」と「打球音」は、日常では体験できない「爽快感」をあなたに与えてくれるだろう。