スポーツ選手が偉大な結果を残した際に、「ボールが止まって見えた」「体が急に軽くなった」などインタビューで語るシーンを観たことはないだろうか。
奇跡のようなこの現象の正体を「フロー状態」と言う。
一昔前では身体面での強化のみが重要視されていたが、近年の研究によりメンタル面からのアプローチがパフォーマンスを向上させることが判明している。
この記事では、フロー状態のメリットやフロー状態に入るためのトレーニング方法・注意点を紹介する。
スポーツ選手だけにしか入れないと思われがちな境地を理解し、パフォーマンスを向上させよう。
フロー状態とは?
フロー状態とは何かと聞かれて「何となくは理解できるけど、言語化するのが難しい」と思っている方も多いのではないだろうか。
フロー状態の定義は以下の通りだ。
- フロー状態
- 自分やまわりの人・時間などが完全に気にならない程、目の前のプレーに没頭している状態
フロー状態の勘違いとして、「フロー状態=限られたスポーツ選手にしか入れない境地」だと思われがちだ。
しかし、フロー状態は誰でも入れる可能性がある。
なぜなら、フロー状態に入るためには「条件」があるのだ。
その条件を理解し、自分の体に落とし込めればフロー状態をマスターできるのだ。
まずはフロー状態のメリットを解説する。
フロー状態のメリット
フロー状態のメリットは以下の通りだ。
- 創造力向上
- 持久力の向上
- スキル習得速度の向上
どれも競技力を向上させるには重要な要素である。
フロー状態のメカニズム・バドミントンに与えるメリットをこれから詳しく解説する。
創造力向上|フロー状態のメリット①
フロー状態に入れれば創造力が向上し、ラリーの主導権を握れる。
具体的には返球の予測が鋭くなったり、ショットの選択肢の増加したりするのだ。
「分散思考」と「反芻思考」が原因で多くの方はフロー状態に入れない。
- 分散思考
- 目の前のプレー判断以外の思考が頭をよぎる(例:「疲れたな」「お腹空いたな」)
- 反芻思考
- 頭の中で繰り返し同じことを考え続ける(例:直前等のミスを引きずり、「ミスしたくない」と思い続ける)
上記の思考状態を改善できれば、目の前のプレーだけに没頭できる。
相手のプレー予測や次の返球の状況判断のみに没頭し、今まで考えられなかったプレーの選択が可能になるのだ。
持久力の向上|フロー状態のメリット②
フロー状態に入れれば、効率的なフットワークを実現できるのだ。
なぜならフロー状態に一度入ると、思考の没頭のみならず「体のリラックス状態(弛緩状態)」が生まれるからだ。
理想的なフットワークとは、「上半身のブレが少なく体全体に均等に適度な力が入った状態で動き続ける」ことだ。
多くのプレイヤーは体のバランス感覚・自然と身についてしまった悪い癖が原因で、効率的なフットワークができていないケースが多い。
しかし一度フロー状態に入ってしまえば体の無駄な力が抜けるため、余計な体力消費が減り、ラリー中に普段よりも粘れるようになるのだ。
スキル習得速度の向上|フロー状態のメリット③
フロー状態に入ると「スキル習得速度の向上」も期待できるのだ。
通常であれば練習や試合で「計画→実行→測定→改善(PDCAサイクル)」を回しながら、時間をかけてパフォーマンスを向上させていく。
しかし、フロー状態に入るとこのPDCAサイクルを高速で回し効率的にパフォーマンス向上を実現できるのである。
メカニズムは以下の通りだ。
- フロー状態に入ると自分の体の動かし方に注力できるようになる
- フロー状態に入ると創造力も向上し普段よりも余裕ができ、普段やらないプレーが脳裏に浮かぶ
- 成功体験(いいショット・いいフットワーク)を体が記憶し、新しいスキルとして身に付く
このスキル習得速度の向上により、急にスマッシュがラインギリギリに決まりだしたり、どんなショットも拾えるようになったりするのだ。
フロー状態に入るためのトレーニング
フロー状態のメカニズムとメリットの説明を通じて、フロー状態の正体がはっきりしてきたのではないだろうか。
フロー状態とは、「脳と体が一定の状態になると入れる現象」である。
フロー状態の正体
- 脳の状態:目の前のプレーのみに没頭している状態
- 体の状態:均等に適度な力が入ったリラックス状態
とはいえ、「フロー状態を目指すためのトレーニング方法がわからない」と思う方も多い。
これからフロー状態に入るための方法を2つ紹介する。
- 自分のフロー状態を認知する
- 体を「リラックス状態」にする
まずは1つ目の方法からチャレンジしよう。
①自分のフロー状態を認知する
フロー状態を研究している機関が、フロー状態についての驚くべき事実を発表している。
「どんな人も1日30分はフロー状態に入っている」
引用:「Flow Research Collective」(FRC)
この研究結果は、人間は生活するなかで「無意識」にフロー状態に入っている事実を証明するものだ。
この【無意識的フロー状態から意識的フロー状態】に変えるだけで、フロー状態は手の届くところまで近づいてくるのである。
具体的には以下の流れで、フロー状態を認知するのがおすすめである。
- 日常生活の中で「時間を忘れて没頭している時間」を記録する
- どんな条件でフロー状態に入っているか記録する
(全身の力の入り方・呼吸のリズム・感情・周囲の環境などを記録) - プレー中にフロー状態を体現するにはどうしたらいいか考える
人それぞれ没頭するためのトリガーは異なり、「己を知る」ことがフロー状態の最大の近道である。
②体を「リラックス状態」にする
フロー状態は、目の前のプレーに没頭する以外にも「体のリラックス状態」が重要な要素である。
具体的な全身の感覚は以下の通りだ。
- 姿勢がブレにくい
- 呼吸が一定
- 上半身下半身共に余計な力が入っていない
体のリラックス状態を実現するために重要なのが、「リラックスした際の体の感覚を記録する」ことである。
このトレーニングの本質は、内面ではなく体(外側)からフロー状態に近づけていくアプローチである。
- 「体がフワフワした感覚になる」
- 「上半身が股関節に乗っている感覚がある」
など自分だけの感覚を記録するのが重要だ。
まずは、誰もがリラックス状態になる睡眠前などの体の状態を観察しよう。
そのうえで、リラックス状態をプレーでどのように再現できるかを試行錯誤するのが重要だ。
フロー状態の注意点
メリットづくしのフロー状態には、以下の注意点もある。
- 「体がフワフワした感覚になる」
- 「上半身が股関節に乗っている感覚がある」
1はフロー状態に入れない方が陥りがちな傾向、2はフロー状態を体得した方への警鐘である。
注意点を十分理解して更なるレベルアップを目指そう。
①「フロー状態」に入りたいと意識しすぎない
プレー中「フロー状態に入りたい」と思い込み過ぎるのも注意が必要だ。
なぜなら、フロー状態はプレッシャーとリラックスの絶妙なバランスのうえに成り立っているからだ。
またフロー状態を強く願うがゆえに、その状態にいない状況に焦りを感じモチベーションが下がる可能性すらある。
そのため、フロー状態ではなく「フロー状態の先に何を求めるか」に焦点を当てるのをおすすめする。
フロー状態自体ではなくその先に意識が向き、反芻思考が和らぐからだ。
②体力・集中力管理は忘れない
フロー状態を一度経験すると「いつまでもこの状態が続く」と錯覚しやすい。
前述の持久力の向上はフロー状態のメリットではあるが、限界もある。
目が向きにくいだけで、気付かぬうちに体力・集中力を消耗している。
体力・集中力管理を怠り無理をした結果、怪我につながるケースもあるので注意が必要だ。
前日の睡眠時間その日の疲労具合等を考慮しながら、その日の練習・試合で「フロー状態」に入るかを判断する必要がある。
まとめ
フロー状態は、【①まわりを気にせずプレーに没頭し②上半身下半身共に余計な力が入っていない】条件が揃ったとき実現できる。
まずは、日常生活で時間を忘れ没頭しているシーンを記録するところから始めよう。
意識的にフロー状態を認識できれば、コートでプレーする際にも体現できるはずだ。
フィジカル面でのトレーニングのみならず、メンタルトレーニングも同時に実施しライバルに差をつけよう。