陸上競技・長距離には5000mや10000m、マラソン等の種目がある。
長距離種目を速く走るには高いランニングエコノミーが重要。ランニングエコノミーとは、ある走速度に対してより少ないエネルギーで走れるかをみるもの(1)である。ランニングエコノミーの高さは様々要因が絡んでくるが、特に「効率の良いフォーム」は重要な要素だ。
本記事では、かつて800mで県NO.1ランナーで、現在は市民ランナーとしてマラソンをメインにトレーニングを行なっている筆者(自己ベスト:2時間35分)が実際に意識していることを中心に「長距離・マラソンで意識すべきフォーム」について解説していく。
理想の着地(足のポジション)
理想の着地は「つま先から?かかと?それともフラットに?」
これは私自身もよく聞かれる質問で、特に42kmもの距離を走るマラソンでは永遠のテーマである。”理想”で言えば答えは「フラットもしくはつま先」だろう。日本人長距離ランナーとして国際レベルで活躍している大迫傑選手がつま先着地なのは有名な話。また、長距離大国ケニアの選手も大半がつま先着地である。つま先着地はかかとから着くよりも身体への衝撃が少なく、少ないエネルギーで走れる。
しかしこれはあくまで”理想”。かかと着地が癖になっているランナーが無理につま先着地をしようとすると、かえって無駄なエネルギーを使い筋肉へ大きな負担がかかってしまう。
そこで私がお勧めしたいのは、かかと着地のランナーは「普段のランニングでフラットに着地することを意識する」ということである。もちろんつま先着地が癖で無意識にできている人はそのままで良い。少しずつフラットに近づけ、無意識レベルでできるようになればエネルギー効率は向上していくだろう。
どこから着地するか、だけではなく足の向きも重要
どこから着地するのが理想なのかを解説したが、着地時の足の向きも大切だ。ここで言う足の向きとは「つま先が内を向いているのか、外を向いているのか」ということである。結論から言うと写真の右ランナーのように「進行方向に対して並行」に着くのが理想。いわゆるガニ股や内股ではなく真っ直ぐに着地する。
真っ直ぐに着地することで力のベクトルが前方にのみ向くため、無駄なエネルギーを使わなくて済む。逆に内または外向きで着地すると左右方向に力が逃げてしまうため非効率だ。
人それぞれ身体の構造や走りの癖が違い改善するのには時間がかかると思われるが、普段のランニングの中で時々意識してみてほしい。
腰高を意識
「腰が落ちる」ことのデメリット
「疲れてくると腰が落ちる」。これは初心者のランナーや筋力が不足しているランナーによく見られる現象である。確かに、上半身を真っ直ぐに保ちながら長距離を最後まで走るのは難しい。そして私自身もマラソンを始めてすぐの頃は、レース後半いつもこんな状態だった。
腰が落ちることには大きく2つのデメリットがあると考える。1つは「前方への推進力が得られない」ということ。実際やってみてもらうとわかるが、腰が落ちた状態で走ると思うように前に進めない。また、そのフォームだと一定のスピードを保つことができなくなってしまうはずだ。
デメリットの2つ目は「前腿の筋肉(大腿四頭筋)が疲労する」という点だ。腰高のフォームで走ると主に腿裏(ハムストリングス)やお尻の筋肉(臀筋)が使われる。しかし腰が落ちてしまうと、前腿が使われすぐにパンパンになって疲労してしまう。普段のランニングでは腿裏の筋肉やお尻の筋肉が鍛えられており、前腿はそれらの部位に比べて鍛えられていないためスピードが出せず、すぐに疲労してしまうのだ。
腰が落ちないようにするための意識・トレーニング方法
「腰が落ちる」ことのデメリットを解説したが、その対策としてどのようなトレーニングをして、どのような意識を持てば良いのか。実際に私自身が行なっているトレーニングや意識していることを中心に解説していく。
まずはトレーニング方法について。腰が落ちないようにするためには“体幹”の強さも重要だ。体幹がしっかりしていれば身体を真っ直ぐに保つことができる。そこで、実際に私が行なっている体幹トレーニングを紹介する。
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プランク
うつ伏せになった状態で前腕・肘・つま先を地面につき、その姿勢をキープする。 腹筋やインナーマッスルに効果的。 -
リバースプランク
仰向けの状態で肘を立て、上半身を持ち上げる。足を伸ばして踵で下半身を持ち上げる。
背中の筋肉やお尻の筋肉、腿裏の筋肉などに効果的。 -
サイドプランク
横向きになり肘を曲げて床につく。両足は伸ばして重ね、前腕部と足で身体を支え腰を持ち上げる。
腹斜筋呼ばれる脇腹の筋肉やお尻上部の筋肉などに効果的。 -
バードドッグ
四つん這いの状態から右手左足を伸ばしてキープする。逆も行う。
インナーマッスルやバランス力の向上に効果的。
⑴〜⑷全て、初めての方は30秒ずつ2セット行うと良い。慣れてきたら徐々に秒数やセット数を増やせると理想。
いずれも頭から足先までが一直線になるように行うのがポイント。
では次に腰高フォームで走るために、私が走行中意識していることについて解説する。
意識していることは大きく2つ。1つ目は「頭を吊り上げられている」意識である。腰が落ちてくるとどうしても地面方向へ力が逃げてしまうが、この意識を持つことで自然と上方向へ力が向き、頭や背中も真っ直ぐに保つことができる。
しかしこれには注意点もある。それは力のベクトルが上にばかり向いてしまうことだ。速く効率的に走るためには上方向に加え前方へも力が向くことが重要。常にこの意識だと上にぴょんぴょん跳ねるだけになってしまうので、「腰落ちてきたな」と思った時点からこの意識を持つと良い。
2つ目は「卵が敷き詰められた上を走る」という意識である。これは世界的に有名なランニングコーチであるジャック・ダニエルズ氏の著書(2)に書かれていたものだ。私はこの本を読んでから意識するようになり、腰高フォームだけでなくフラットな着地も習得することができた。腰が落ち、極端に言うと「ベタベタした走り」になると仮に卵があれば絶対に割れてしまうだろう。一方で卵を割らないように柔らかい着地を意識すると自然と腰も上がるのだ。ふざけているようにも見えるが意識しやすいのでぜひ実践してみてほしい。
推進力を生む腕振り
ランニングで上半身を適切に使うことが重要な理由
長距離やマラソンでは着地や足の動きが注目されがちだが、上半身の使い方も非常に重要である。
ランニングは全身運動であり、頭から足先までが上手く連動することで推進力が生まれ効率よく走ることができる。腕が全く振れていなかったり、上半身が左右にブレたりすると大きな推進力を生み出せず、無駄なエネルギーを消費してしまう。
上半身の動きで特に重要なのは「腕振り」だと考える。箱根駅伝で一躍有名になった青山学院大学駅伝部。青学の専属トレーナーである中野ジェームズ修一氏も腕振りは推進力を生むために重要だと言います(3)。
腕振りは肩甲骨を使って大きく引くことでそれに連動して下半身の動きや可動域も高まる。注意点としては意識するあまり肩に力が入ったり、無駄に大きく振りすぎること。あくまで自然に、ストレスがかからない程度に振ることが大切である。
筆者が意識している腕の振り方、手の握り方
腕振りが重要なのはわかったが、実際走っている時どういった意識が必要か。私が実際に意識していることを中心に解説していく。
私が腕の振り方で2つのことを意識している。1つ目は「肘で太鼓を叩くように」という意識。これは言葉通りで、肘で自分の後方に太鼓があるイメージでポンポンポンとリズムよく叩くというものだ。この意識を持つと、自然と程よく腕が引け、なおかつリズムよく腕振りができるため、下半身とも上手く連動できる。
もう一つは、厳密には腕の振り方ではないが“手の握り方”の意識である。実際に私が意識しているのは「親指・人差し指・中指の3本で卵を軽く握るイメージ」。
写真のように、薬指と小指は握った状態で、残りの指で卵を優しく包み持つイメージ。レース後半、疲れが出てくると手をパーにして走ったり、ギュッと力強くグーで走るランナーがいる。これらは無駄な力を使ってしまうため自然な握りが理想的だ。自然に握ることができれば、意識の仕方は自分に合うもので良いが、方法の一つとしてぜひ試してほしい。
まとめ
以上、「長距離・マラソンで意識すべきフォーム」を筆者の経験を中心に解説してきた。長距離を速く走るには省エネルギーで効率よく走ることが重要。筋力や心肺機能を向上させることももちろん大切だが、効率の良いランニングフォームを獲得し、いかに無駄なエネルギーを使わず走るかも重要だ。
ぜひ、今回紹介した意識の持ち方やトレーニング方法を実践してランニングエコノミーの向上に役立ててほしい。
参考文献
- ⑴榎本靖士 『長距離選手のランニングエコノミーに影響を及ぼす体力および技術的要因の検討』 筑波大学体育学紀要 2013年
- ⑵ジャック・ダニエルズ 『ダニエルズのランニング・フォーミュラ 第4版』 ベースボールマガジン社 2022年
- ⑶GoodsPress 『中野ジェームズ修一さんに聞いた!マラソン大会のレース前にやるべき3つのこと』2018年10月9日更新 https://www.goodspress.jp/howto/186551/2/