チキータとは何か

ここ数年、卓球界の若い世代の選手でよくみられるチキータというレシーブ。
チキータとは、短いサーブやストップレシーブに対し
台上で横・上回転をかけて攻撃を仕掛けるバックハンド打法の一つである。

現在、チキータはトップ選手の中でも男女問わずメジャーな台上技術の一つとなっている。
近年では、クラブチームのジュニア選手にも指導を行い
試合でチキータを駆使して得点を重ねる選手も多くみられる。

レシーブの流行はチキータ

私自身は卓球をプレーヤーとしては2008年に引退し
現在は子供の試合でベンチコーチをしている身だが
2008年頃はチキータを駆使する選手はさほど多くはなかった。

爆発的に流行する前のちょうど狭間の時期である。
下回転に対するレシーブは、ツッツキ、ストップ、フリックといった技術があった。
ツッツキやストップは防御的な技術であり、フリックは下回転の回転量が
多ければ対応が難しい技術であった。

つまりレシーブ側は自ら先手を打って攻撃に転じるような技術は
比較的少なく、相手の回転量に応じて対応策を変化させる必要があったわけだ。

私も中学時代、フォア前の下回転サーブに対してチキータのように横回転を
かけてレシーブしようとしたことがある。

その時は顧問の先生から
「馬鹿なことはやめろ、時間の無駄だ。しっかりツッツいて返せ。」
と止められたことがある。それだけ馴染みのない技術だったということだ。

ところが、ここ近年、トップ選手からジュニア選手まであらゆる層で
流行し始めているのがチキータという技術だ。

チキータは、サーブ有利と言われている卓球という競技において
レシーブ側が攻撃に転じることができる革命的な技術であり
今後もまず間違いなく主流になっていく技術と考えることができる。

「チキータはできなければならない必須の技術となってきている。
チキータができる選手は、そうでない選手よりも確実に勝利に近づけるだろう。」
とTIT卓球代表 髙橋真佐人監督は語る。

チキータのメリット

ここまでチキータについて紹介してきたが、一言にチキータといっても
上回転をかけて威力を上げる打ち方、横回転をかけてバウンドを
変化させる打ち方、左横回転をかけて相手の意表を突く打ち方(逆チキータ)
などの様々な技術がある。

いずれにせよ、先手を打ち、ラリーで優位に立つための技術だ。
チキータの素晴らしい点は、以下のように分類できる。

➀相手の出したサーブに対しての対応力の向上

主なレシーブミスの原因は、相手の出すサーブの回転に対する
ラケットの面の角度が違っていることにある。

ボールは地球の地軸と同じで、一本の回転軸に沿って回転する。
その回転軸に対して相対する部分にラケットを出してしまうと
ボールが意図しない方向に飛んでいき、レシーブミスにつながるのである。

また、たとえレシーブが入ったとしても
ボールの高さが高くなってしまうと相手に強打されてしまい
相手に攻撃の主導権を握られてしまうことになる。
これもまたレシーブミスとなる。

➁「外す」技術

チキータという技術の核心部分は、「外す」技術であると言える。
相手の出したサーブなどの回転軸を「外す」。

回転軸さえ外せば、如何様にも回転をかけ直すことができる。
至ってシンプルな考えである。

回転軸を外せばいいわけだから、習得もさほど難しくはない。
サーブ側の心理としては、自らの意思でサーブの回転を決め
その回転に基づいて三球目攻撃を想定するわけだが
チキータで回転軸を変えられると三球目攻撃の想定が崩壊することにつながる。

つまり、サーブ側の想定をも「外す」ことにつながり
その後の展開を有利に進めることができるのである。

チキータ

➂レシーブの選択肢を広げる

ここまで述べてきたように、かつてはレシーブ側の技術は
どちらかというと防御的な選択肢に限られてきた。

しかしチキータをマスターすることにより攻撃的な戦術を選択できるようになる。
すると、サーブ側はレシーブ側がとってくるであろう防御的・攻撃的のいずれかの
戦術も想定せざるを得なくなり、レシーブ側が有利となるのである。

攻撃的な選択肢があるから、防御的な選択も効果を発揮するし、その逆も然りである。
ストップ待ちの相手にはチキータを、チキータ待ちの相手にはストップを。

レシーブとは相手の意表を突くことが本質であり
意表を突くことができればレシーブ側の得点率は大きく上昇する。

その中でもチキータは、卓球の王道であったツッツキ合いから
ラリー戦へと戦術を大きく変えた特異な技術であると言える。

フォア側に回り込むようにしてボールの回転軸を外す
フォア側に回り込むようにしてボールの回転軸を外す

チキータの歴史

このチキータという技術、実は1990年代にピーター・コルベル選手(チェコ)が
使用したのが始まりである。名前の由来は「チキータバナナ」のように
曲がることからきているという。

古くからある技術だったが、その流行はここ最近である。
そのため2011年以前から卓球をしていた選手にとっては比較的新しい技術と
して認識されているが、現在のジュニア選手にとっては当たり前の技術となっている。

2011年の世界卓球において張継科選手(中国)がチキータと
バックドライブを駆使して初出場にもかかわらず優勝したことで、
チキータが世界に通用する技だと多くの卓球プレーヤーに認識され
爆発的な流行に至った。

数値で見るサーブ・レシーブ間のパワーバランス

従来まではサーブを持った側の得点率が高いという認識であった。

実際に「サーブ時ポイント獲得率」を
(1)2012年ロンドン五輪、(2)Tリーグ2019-2020シーズンで
平均を算出したところ、以下のようになった。

算出方法は以下のとおりである。
➀各選手の得点数・失点数・サーブ時ポイント獲得率からサーブ時ポイント獲得数を概算
➁全選手のサーブ時ポイント獲得数合計を得点数・失点数の合計で除算

その結果、

(1)ロンドン五輪では、サーブ側得点率は55.0%
レシーブ側得点率45.0%となり、なんと10%もの乖離が
あることが分かった。

(2)Tリーグでは、サーブ側得点率は53.0%
レシーブ側得点率は47.0%となり、6%の乖離となった。

サーブ側得点率 レシーブ側得点率
ロンドン五輪 55.0% 45.0%
Tリーグ 53.0% 47.0%

このことから、やはりサーブ側が有利という定説は現在も正しいようだ。
しかし同時に、2012年と2020年の間でサーブ側とレシーブ側の得点率の乖離が
縮小してきていることも読み取れる。

同シーズンの張本選手(日本)に着目すると
一試合当たりのサービスエースは1.2点であるが
レシーブエースは2.5点と倍増している。

いよいよサーブ有利の時代が終わりを迎えつつあるのかもしれない。

TTS OHANA代表 小野達也監督はこう語る。

「レシーブ有利となる時代がまもなく到来するのではないか。
もちろんサーブ技術もレシーブ技術も日進月歩であり、鼬ごっこである。
新たな技術は必ず出てくる。
しかし、チキータという技術に着目すると
これから、いや、もうすでに必須の技術となっている。
それはジュニア選手にとっても、一般選手にとっても同じである。
チキータ技術の獲得と安定は、勝利の要となる。」

「サーブが得意な選手ほど、レシーブ力を磨く必要があるし
その後のラリー技術でミスを減らすことが勝利につながる。」

まとめ

ビッグサーバーとしてヤン・オベ・ワルドナー選手(スウェーデン)や
ティモ・ボル選手(ドイツ)、馬龍選手(中国)といった英雄が
その名を轟かせたが、これからは名レシーバーとして語り継がれる選手が
どんどん出てくるのではないか。

ホカバ予選・本戦ともにレシーブ力の高い選手がリーグを勝ち上がることが
多くなってきている。レシーブ制度の向上こそ勝利の鍵。
皆様もぜひチキータに挑戦してみてはいかがでしょう。