テニスにおいてコートサーフェスによるプレーへの影響というのは、レベルに関係なく大きいものである。
テニスのご経験がある方であれば容易に想像がつくだろう。

そもそも世界大会でプレーするサーフェスがここまで変わる競技は珍しいのではないだろうか。
現在の世界のツアー大会で使われるコートはハード、クレー(土)、グラス(芝)の3種類である。
さらにローカルの大会になれば砂入り人工芝、カーペット、体育館のフローリングなど実に多種多様な場所で公式大会が行われ、プレーヤーはそれぞれに対応を求められる。

テニスの歴史は古く11世紀まで遡ると言われている。
サッカーのように広いグラウンドを必要としなかったことから屋内外、場所を選ばなかった。
さらに近代テニスが世界的な広がりを見せたことで各地域の気候条件などにより多種多様のテニスコートが誕生している。
また例えばクレーコートと括られていても土の質や気候の違いによってコートの性質は全く違うものになるのでテニスコートの種類は無数にあると言えよう。

日本のテニスコートも独特の発展が見られる。
砂入り人工芝というコートが非常に普及しているがこのコートがまた世界的に見ても非常に稀有なのである。
小雨が多い気候、ソフトテニスの発展がその理由ではあるが、これが日本テニスの強化の弊害になるという意見は多数ある。
一方でレジャーとして楽しむのに適しており日本テニスの独自性であるとも言える。

実際にテニスをプレーすると例えば同じハードコートでも表面加工の違いなどで跳ね方は異なる。
どのような跳ね方をするかはコートの反発力と摩擦力である程度説明できる。
一般的に反発力が強ければボールは高く遠くに跳ねる。
ところが摩擦力が強ければボールの推進力が失われボールは上に跳ねる。
またボールの回転によって摩擦力が変わるのでサーフェスによって攻めるボールも変わるのである。

世界のスタンダード、ハードコート

現在、世界の大会で最も多く使用されているのがハードコートである。
ハードコートは下地を固めてしまうため気候や場所による影響を受けにくい。
また最近流行の青色のコートがボールの視認性を高めておりプレーする上でも快適に感じられる。

日本では後述する砂入り人工芝に押され気味であったが、アスリートの練習環境、選手育成、大会誘致を考慮して世界標準であるハードコートは増えている。

ハードコートの特徴は反発力の高さである。
ハードコートでプレーをするときは速く、高く弾むボールに対してどれだけ正確にコンタクトできるかというかが非常に重要である。
また試合になったときは一歩目の速さ、敏捷性の高さが求められる。

同じハードコートの中でも表面加工により摩擦力を強くしているコートがある。
そのようなコートではボールの推進力が抑えられ、ボールが上方向に弾むためボールに追いつきやすくなるが、高い打点への対応が求められる。
テニスにおいて高い打点を強打するというのは習得が非常に難しい技術でありハードコートに慣れていないプレーヤーは苦労するであろう。

ハードコートのような硬い地面で運動をすると、これはテニスに関わらずであるがやはり足腰への負担は大きい。
また靴底に対してハードコートは摩擦が大きく動き始めは動きやすいがストップするときに大きな力がかかるので慣れていない方は注意が必要である。

日本以外ではあまり普及していない砂入り人工芝

日本で最も普及しているコートといえば砂入り人工芝であろう。
ハードコートと並んで維持管理しやすく、かつ小雨が多い日本において多少の雨でもプレーができるサーフェスは重宝された。
また日本においてソフトテニスの競技人口がテニスを上回っており、ソフトテニスのボールはハードコートでは変化が大きくなりすぎるようであまり好まれない、さらに高齢者の足腰の負担が軽いなど利用者目線で砂入り人工芝を導入する団体は多い。

砂入り人工芝は反発力が弱い。
そのためバウンドでボールが高く跳ね上がらない。
イレギュラーも少なくレジャーとしてビギナーが楽しむのに最も適している。

一方で砂入り人工芝は摩擦力がやや弱い。
ボールに逆回転をかけるスライスはボールとコートの摩擦をさらに小さくする効果があるため軌道の低いスライスはコートの上を滑り、推進力を失わない。
高く弾ませることが困難な砂入り人工芝では、このスライスを効果的に使うプレーヤーは非常に厄介な相手なのである。

気候や土の質で性格が変わるクレーコート

荒れたコートサーフェス

クレーコートというのは土の質や気候によってかなりばらつきがある。
ただ表面は粒子になっているので摩擦力が強くなりやすい。
また日本のような雨が多い気候では土が固まりにくく反発が弱くなりやすい。

トップスピンはボールとコートの摩擦を強くする。
さらにボールの軌道が落ちるのでコートに対してボールを上から落とすことができ、摩擦力が強いクレーコートの特徴を最大限に引き出すことができる。
しかし反発力が弱いコートにおいてはボールが高く跳ね上がらないので、日本のクレーコートではスペインや南米の選手が打つような強いスピンをイメージして打ってもいまいち効果を感じない。
逆にドロップショットなど前後の揺さぶりが効果的であるように思う。

クレーコート全般で言えることは、摩擦力が強くボールがバウンドしてから推進力を失うためボールに追いつきやすいということにある。
そのためミスが少なく、かつ足の速さ、体力があるプレーヤーが他のコートサーフェスに比べると勝機を見出しやすい。

日本でプレーするテニス愛好家がクレーコートで気をつけるべきはまずはコートの特徴を見極めるべきだろう。
そのコートの反発力が高ければトップスピンでの攻撃は非常に効果があるかもしれない。

まだまだあるコートサーフェス

テニスの聖地、ウィンブルドンで使用されているのがグラスコートである。
グラスコートは管理が難しく日本でも非常に少ないのでテニス歴30年を超える私もプレーしたことがなく、想像の域を超えないが、極端に摩擦力が小さいのが特徴である。
ボールの推進力が失われないため非常にボールが速く感じられるそうだ。
プロの試合を見ていても普段あまりスライスを打たないプレーやでさえスライスを多用し、高い打点から打ち込む場面はなかなか見られない。

現在はトップツアーから姿を消したが、以前はツアースケジュールにカーペットコートがあった。
カーペットは反発力が弱く摩擦力は小さい。
球が滑ってくる感覚はあり左右の動きにはスピードが必要であるが反発力も弱いので打点の高さはある程度一定になる。
砂入り人工芝に跳ね方は似ているが、やや速く感じるであろう。

国内大会では体育館のフローリングで大会が開催されることもある。
反発力は高いが摩擦力は小さいため、球速は他のサーフェスに比べてかなり早く感じる。
反発力も高いため対応が最も困難に感じるサーフェスであり、特にサーブが得意な相手であればレシーブは非常に苦労する。

一括りにハードコートといっても表面加工によって跳ね方は異なる。
クレーコートになればなおさらコートによってばらつきがある。
もちろんテニスにおいて考慮すべき外部要因はコートだけではないが外部要因に対して順応する力を身につけることはテニスの技術力向上に不可欠である。

初めての環境でテニスする時、コートに慣れるまではいつも通りのプレーは難しい。
速さに対応するためテイクバックを小さく、高低差に対応するため姿勢を低く、ポジションを下げるなどの対策を取るといいだろう。

対応力を鍛えるために、やはり普段からさまざまな環境化でプレーするようにした方が良い。
高い打点やライジング、スライスやドロップショットなどプレーの幅を広げるということはテニスの楽しさそのものでもある。
環境を変えることでいつもはあまり必要とされない技術が求められ、その技術は日常的にプレーする環境にも応用できる。
技術は自己表現の手段である。
テニスとは勝ち負けを競う競技ではあるが個人スポーツであるが故に自由であり、プロの試合でも勝ち負けを超えた自己表現をファンは楽しんでいる。
アマチュアプレーヤーにとっても様々なコートサーフェスは多彩な技術を生み、よりテニスが楽しくなるきっかけになるだろう。