股関節に起こる問題

SNSの普及によりコンディショニングやトレーニングに関する情報発信は増えており、プロ選手のみならずアマチュアプレーヤーでも身体の使い方に関する情報を入手しやすくなっている。
情報の発信の中でも特に目に入るのが、股関節の使い方をレクチャーしている情報発信である。
スポーツ選手が股関節の重要性を理解しているのは素晴らしいが、お尻やふとももの裏側の筋肉(臀部やハムストリングス)ばかりトレーニングを行うことで、股関節の動きを狭めてしまい、痛みの原因になってしまっている事も多い。
今回はお尻やふとももの裏の筋肉のトレーニングばかり行っている選手が陥りやすい、股関節外旋に働く筋肉が強く働く動き、いわゆる「がに股」の動きを修正し、動かしやすい股関節を作るエクササイズを紹介する。

股関節の形状と特徴

股関節は「骨盤」の中にふとももの骨である「大腿骨」がはまり込む形をしており、肩の関節のように大きく動く部分と比べると安定した形をしている。
股関節を動かす主な筋肉として、大殿筋(お尻)、ハムストリングス(もも裏)、腸腰筋(腰)、といった強い力を発揮する筋肉がパワフルに動かし、中殿筋(お尻の横)、深層外旋六筋(お尻の深部)などの小さい筋肉が動きを調整し、安定性をより高めている。
骨の形と股関節に付着する筋肉の働きによって、サッカーで見られる、スプリントやターン、シュートやジャンプなどの、強い力を要する動きを安定して行うことができるのが、股関節の特徴である。

よく見られる使い方の偏りと原因

関節の動く幅は関節可動域(可動域)と呼ばれる。
可動域の制限は関節の動かしやすさに直結する。
特にサッカー選手に多く見られるのはつま先が外を向いてしまう「がに股(股関節外旋)」の偏りである。
股関節の構造上、つま先を内側に動かす筋肉に比べて、つま先を外に向ける筋肉の方が数も多く強い力を出せるため、がに股方向への動きはやりやすいのだが、つま先を内側に向けるトレーニングを意識的に取り組めば動作の偏りは解消することが出来る。

エクササイズコンセプトの説明

実際にプロのサッカー選手にも指導したエクササイズプログラムを紹介する。
股関節内旋の可動域を確保し、スポーツ中でも自分の意思でコントロールできる可動域を増やすために、効果的に体の使い方を学習できるプログラムになっている。

エクササイズリスト

目的 種目名 回数
可動域拡大 外旋筋ストレッチ 10回×3set
90ー90ストレッチ 10回(左右5回)×3set
動作の学習 四つ這い股関節屈曲 10回×2~3set
股関節内旋HIPlift 10回×2~3set
レッグスルー 片側10回×3set
ヒップタッチエクササイズ 10回×2~3set
動作の学習 伸脚スクワット 10回(左右5回)×3set
ファーマーズウォーク 1往復×3set
四股スクワット 10回×3set

エクササイズメニューは表の通り3つの目的に分類している。
同じ種目が連続すると身体が慣れてしまうので、毎日すべての種目を行うのではなく、日ごとにエクササイズの順番や種類を身体の状態を考慮して選ぶことを推奨する。

エクササイズの解説

外旋筋ストレッチ

スタートポジション
外旋筋ストレッチ スタートポジション
エンドポジション
外旋筋ストレッチ エンドポジション
  1. 四つ這いになり、膝を肩幅より広く開く、足首が膝より内側に来ないよう開く。
  2. 腰が丸まらないように意識しながら、お尻を引いていく。
  3. 腰が丸まらないように注意して動作を繰り返す。

股関節の小さい外旋筋群のストレッチを行うエクササイズ。
股関節が柔らかい人や女性にとっては軽い運動に感じるが、靭帯や筋肉が固くなってしまっている人にとっては、痛みが強く出やすい種目なので、ゆっくりと少しずつ動かす幅を広げていくと良いだろう。

90‐90ストレッチ

90‐90ストレッチ スタートポジション
スタートポジション
90‐90ストレッチ エンドポジション
エンドポジション
  1. 四つ這いになり、膝を肩幅より広く開く、足首が膝より内側に来ないよう開く。
  2. 腰が丸まらないように意識しながら、お尻を引いていく。
  3. 腰が丸まらないように注意して動作を繰り返す。

股関節の小さい外旋筋群のストレッチを行うエクササイズ。
股関節が柔らかい人や女性にとっては軽い運動に感じるが、靭帯や筋肉が固くなってしまっている人にとっては、痛みが強く出やすい種目なので、ゆっくりと少しずつ動かす幅を広げていくと良いだろう。

動きの再学習エクササイズ

体の動かし方には人それぞれに癖があり、股関節の動かせる幅が大きくなっても動きの癖が残ったままでは、また同じ状態に戻ってしまう。
関節の動きの制限を解除したあとに適切な運動を繰り返し行い、身体に正しい動き方を学習することで、動作の癖を改善することが出来る。
股関節の内旋可動域を出すエクササイズを行った後に、動作の学習として以下のエクササイズを行うと良い。

四つ這い股関節屈曲

四つ這い股関節屈曲 スタートポジション
スタートポジション
四つ這い股関節屈曲 エンドポジション
エンドポジション
  1. 四つ這いになり肩幅程度に膝を開く。
  2. その体勢のまま股関節を曲げてお尻と踵を近付けるように動かす。
  3. 動作の途中で腰が丸まる動作が僅かでも起こったら①の体勢に戻る。
  4. 腰を丸めずに曲げられる可動域を広げるように注意して繰り返し行う。

股関節の屈曲を行うエクササイズ、単純に股関節を曲げるだけの動作なので何も意識しなければ踵とお尻が簡単に触れてしまう。
しかし骨盤の動きを意識的に制限すると意外と難しい動作であることがわかる。
骨盤の動きを腹筋や背筋でコントロールする感覚を覚えることに対しても有効なエクササイズである。

股関節内旋ヒップリフト

股関節内旋ヒップリフト スタートポジション
スタートポジション
股関節内旋ヒップリフト エンドポジション
エンドポジション
  1. 仰向けで膝を90°以上曲げ、足を肩幅以上に開く。
  2. 股関節を内旋しながら、足の裏で地面を押して、お尻を持ち上げる。
  3. 柱に固定したゴムチューブを引っ張り、負荷に対抗してお尻を持ち上げる動作を繰り返す。

股股関節の伸展と内旋を複合したエクササイズである。
地面を押す感覚と股関節の内旋筋の活性を促すことが出来る。
ゴムチューブの引っ張りを加えた時に片側の足の内側で地面を押している感覚が強くなれば上手く出来ている証拠である。
お尻を下げる時に足裏の地面を押しているポイントが足の外側に逃げないように注意して地面を押すとより効果的である。

レッグスルー

レッグスルー スタートポジション
スタートポジション
レッグスルー エンドポジション
エンドポジション
  1. 壁際に両膝立ちで構える。
  2. 両手を壁に触れる、この時壁と反対側の手は出来るだけ高い位置にする。
  3. 壁側の足を持上げ、前に足を出す。この時、膝が身体の外側を通らないように真っすぐ出す。

片方の膝で地面を押し、お尻の筋肉で体を支えながら、反対側の足を動かすエクササイズ。
壁で体の動きが制限されるので、片脚で地面を押す感覚を得る事に適しているエクササイズである。
このエクササイズで多く起こるエラーは、手が壁から離れる、膝が股関節より外側を回って前に出てくる動作の2つである。
エラーの原因の多くは支えている足の股関節で地面を押すことが出来ず、身体を安定させることが出来ないためである。
意識して膝で地面を押すとお尻の筋肉に力が入ることが分かるので、試してみて欲しい。

ヒップタッチエクササイズ

ヒップタッチエクササイズ スタートポジション
スタートポジション
ヒップタッチエクササイズ エンドポジション
エンドポジション
  1. 壁(柱でも可)から一足分離れる。
  2. つま先を正面に向け膝を軽く曲げる、お尻を突き出すように動かして壁に当たるまで動かす。
  3. お尻の動きと同時に手を万歳になるように上げていく。
  4. 動作の最中に背中から太腿の裏側にかけてストレッチ感を感じながら動作を繰り返す。

股関節を曲げる再学習するためのエクササイズ。
最初に曲げた膝の角度をそれ以上に曲げないよう、注意して行うと効果的である。
膝が曲がってしまうとふとももの後ろ側の筋肉であるハムストリングスの緊張がゆるみ、股関節を曲げる動きが十分に行われなくなってしまう。
股関節の曲がりに合わせて手を上げることで、背中の筋肉とハムストリングスの筋力で関節の動きをコントロールする感覚を養うことが出来る。

立位エクササイズ

身体は立った状態で重力や体勢などの様々な環境に対応して動作を調整しているので、立って状態で行う動きで癖が表れやすい。
トレーニングとして慣れている動きでも、可動域や動作の学習のエクササイズを行った後は、動きの変化を実感しやすいので立位のエクササイズはプログラムの締めに行う事をおすすめする。
動きの変化を感じるだけであれば、単純なスクワットやデッドリフトなどの慣れている動作を行うだけでも良いのだが、立位でも股関節の動作の質を向上させるエクササイズが豊富にあるので、いくつか紹介する。

伸脚スクワット

伸脚スクワット スタートポジション
スタートポジション
伸脚スクワット エンドポジション
エンドポジション
  1. 足を肩幅以上に広げる。
  2. 片足に重心を寄せて深くしゃがむ、反対側の脚はつま先が天井を向くように開く。
  3. 踵が浮いても良いので最大限深くしゃがんだ位置から、身体を元の体勢に戻す

片足に荷重して深くしゃがむ動作を行うエクササイズ。
股関節含めた下半身の関節の動きが硬い人や筋力が弱い人は、深くしゃがむことが難しいので難易度は高くなる種目である。
可動域が十分にあれば、しゃがむ動作は比較的簡単にできるのだが、筋力が足りなければしゃがんだ後に身体を持ち上げることが難しくなるので、筋力が弱い人は伸ばしている足に体重を少し預けて、動作を反復すると良い。
曲げている軸足は体を持ち上げるために、地面を押す感覚をつかむことが出来るので、少しずつ伸ばしている足に頼る割合を減らしていくと良い。

ファーマーズウォーク

ファーマーズウォーク スタートポジション
スタートポジション
ファーマーズウォーク エンドポジション
パターン2
  1. 15kg~20kgの重りを片手に持つ。
  2. 継ぎ足歩行で真っすぐあるく。
  3. 10m程度進んだら、逆手に持ち替えて、行きと同様に継ぎ足でかえってくる。

重心のコントロールを学習するエクササイズ。
「重い」と感じる重りを持ち、継ぎ脚で歩くだけのエクササイズで難しい要素はほとんどない。
このエクササイズを行うと、バランスの崩れに対する反応が鋭くなり、片足立ちなどの不安定な動作が簡単に行えるようになる。
重量物を用意することが難しい場合は、写真②のように軽い重りを難しい持ち方で持つパターンでも同じ効果が実感できるので、試してみると良いだろう。

四股スクワット

四股スクワット スタートポジション
スタートポジション
四股スクワット エンドポジション
エンドポジション
  1. つま先を体に対して真横に開く。
  2. 膝が前に出ないように注意しながら、おしりを膝の間に落とすようにしゃがむ。
  3. 膝の高さまでお尻を下げる、このとき上半身が地面に対して垂直になるように努める。

立った体勢で股関節の可動域を広げる効果の高いエクササイズの1つ。
主にふとももの内側の筋肉(内転筋、恥骨筋)が硬い場合は難しい動作だが、四股スクワットが楽にできるようになると、股関節を曲げる動きがスムーズになるため、好んで行うアスリートは多い。
股関節の柔らかさが不足していると、膝が前に出る、上半身が倒れて斜めになってしまう等の動作エラーが多く出るので、壁を補助に使う等の工夫をして、出来るだけ身体が真っすぐの体勢を意識して行うと良い。

以上が、股関節を使えるようにするために、プロサッカー選手に指導したプログラムの一部である。
実際に指導した選手は、毎日の練習前に股関節の動きを広げるストレッチ感覚でプログラムの中から数種類のエクササイズを選んで行っている。
より良い身体の使い方を身に付けるための1つのパターンとして、参考にしていただければ幸いである。