従来のストリングであるナイロン素材との違い

テニスのギアは継続して進化を遂げている。
例えばラケットはウッドラケットからカーボンに、
テニスシューズはより立体的に、テニスボールも白色から黄色、
コートサーフェスもハードコートが普及、以前あったカーペットコートはツアーから消えてしまった。
さてテニスのストリングは古くは羊の腸から作られていたが、西暦2000年以前は長らく合成繊維であるナイロン製が主流であった。
ところが2000年頃を境に、同じく合成繊維であるポリエステル製のストリングが一気に普及することになる。

ポリエステル素材が当初注目されたのはその耐久性であった。
筆者は約15年前に大学を卒業するが在学中はポリエステル製が普及し始めるかどうかの頃で
性能も半信半疑のところもあり継続してナイロン製を使用していた。
筆者はナイロン製の中でも耐久性があると言われる種類のストリングを使っていたが
練習を3日程度、5セット程度シングルスの試合をするとガットが切れていた記憶がある。
ところが社会人になってポリエステル製のストリングを張ると種類によって差はあるものの
早くても1ヶ月、シングルスの試合を30セットしても切れないので非常に
コストパフォーマンスが良くなった。

一方で反発性についてはポリエステル系ストリングの出始めた頃はボールが飛ばないというのが定説であった。
単純に素材の質としてポリエステルは硬い、テニスのボールはストリングの伸縮により飛ぶので、
柔らかく伸縮が大きいナイロン素材の方が飛ぶことは容易にご想像がつくであろう。
伸縮が小さいポリエステルのストリングは飛ばないという印象を今でも多くの方がお持ちなのも無理はない。

しかしポリエステル製のストリングは伸縮が大きくないために縮む力は速く強い。
ストリングにボールが接触している時間が長ければナイロン製のストリングの方が
良くボールが飛ぶのはその通りであるが、スイングスピードが速くなり接触時間が
短くなるとナイロンのストリングでは伸縮に時間がかかりすぎてしまう。

結果として張力など様々な要因はあるが、スイングが一定のスピードを超えると
ポリエステル製のストリングの方が反発性能が高くなるのである。

ポリエステルストリングのデメリット

上述した反発作用に加えてポリエステル製は表面摩擦が小さく、
スナップバックと言われる縦ストリングのスライドにより回転が強くなるので、
ポリエステル製ストリングの反発性能向上も相まって男女ともに
世界のトップ選手でナイロン製ストリングを使用する選手は
ほぼいなくなってしまった。

そのため最近開発されるラケットもポリエステルのストリングに
合わせて開発されるので例えば面のサイズは以前より大きくなり
推奨テンションも低くなっている。

では一般プレーヤーもポリエステル素材が良いのかと言われると
テニスコーチである筆者としては概ね賛成ではあるものの一部の方には
ナイロンをお勧めする。

ポリエステルのストリングはある程度負荷をかけないとストリングが伸びないため
一定のスイングスピードが必要である。

また長い接触時間でボールを打つ場合もポリエステルよりナイロン素材の方が
ボールを長く加速させることができるのでフォームによっては
ナイロン素材をお勧めする場合もある。

もう一つ注意しなければならないのが手首や肘への負担についてである。
ポリエステルは素材そのものが硬いので
衝撃吸収力は弱く(そのため速い球が打てるというメリットはあるが)
肘や手首への負担が大きくなる。
筋力が強くない方にはナイロン素材をお勧めするケースも多い。

また性能面でもポリエステル素材には伸縮性能があまり持続しないという大きな弱点がある。
こちらもストリングの種類によって違いはあるが、大体3週間も使用すれば打球と
時間経過によりストリングが伸び切ったように感じられ、打球が反発しない、抑えが
効かないと感じることができるであろう。
性能維持を大事にしたい場合はナイロンを採用する選択も合理的な判断である。

上記のようなポリエステルのストリングのデメリットを打ち消す方法はいくつかある。
まず一つはテンション(張りの強さ)を弱くすること。
プロの場合、ナイロン素材の時代は60lbsを超える選手も多くいたが
ポリエステルになると概ね40〜55lbsで張る選手が多いと聞く。

また縦糸もしくは横糸のみポリエステルにし、もう一方をナイロンもしくは
ナチュラル(牛の腸由来でナイロンより伸縮の大きさ、速さともに優れている)に
することもプロ選手なども行う一般的な方法である。

縦と横のストリングの種類を変えた張り方はハイブリッドと呼ばれる。
他にもガットの素材にポリエステルとナイロンが一定の割合でミックスされている
ストリングも近年は発売されている。

ポリエステルストリングの出現によるテニスの変化

ポリエステル素材のストリング普及により打ち方は大きく変化した。
ストリングの伸縮が速くなったため従来は体重移動しながら長く押すと
いう動作であったが、体の軸を回転させてより瞬間的にボールを捉える
打ち方が現在は普及している。

またラケットの開発が進みフレーム強度の向上とともに
軽量化したこともスイングスピードが上がる一因となり
ポリエステル素材のストリングと相性が良い進化になった。

プロの試合を見ていてもラケットの操作性が良くなり、かつ反発力が
増したことで以前よりもサーブに対するレシーブが格段に安定性、威力ともに増したため
サーブアンドボレーのプレースタイルで勝てるプレイヤーが
ほとんどいなくなった。

アマチュアプレーヤーの間でも大きな変化が見られる。
ポリエステル性ストリングが普及する前は
体重が軽い10代のプレーヤーの打球は安定感を欠き社会人プレーヤーに
勝つことは非常に困難であった。

ところがスイングスピードを速くすることで体重が軽くても
スイングの軌道が安定するため10代のプレーヤーが
社会人プレーヤーに勝つ機会も多く見られるようになった。

ポリエステルのストリングはまだ発展途上であり毎年のように新しい製品が市場に出る。
打った感触が柔らかいもので合ったり性能維持が長く継続するといったような
ストリングが日々開発されている。

アマチュアプレーヤーは怪我の懸念から
どうしてもポリエステルストリングに抵抗があるという方も多いが
今はラケットもポリエステル素材のストリングに合わせて開発が
進められており、コストパフォーマンスも良いので悩まれている方は
ぜひ一度ポリエステルのストリングをお試しいただくことをお勧めする。